2017年7月12日水曜日

修学旅行で学ぶ人生の傾向と対策

◆はじめに

 この話は,このコーナーのお笑いとはちょっとちがうような気もするのですが,ひろーく考えると,まあ笑い話になるかもしれないと思い,ここにのせることにしましたが,どうでしょう。だいたいタイトルが「人生の」なんて大げさだったかなあ。まあとにかく,もしよろしかったら,どうぞお読みくださいませ。(なお,文字だけの記事ですが,絵はあらためてのちほどかくつもりです。)

◆たのしい旅の計画

高校生の頃。修学旅行が近づいたある日,学校からアンケートと書かれた用紙をもらった。「修学旅行にいきますか?いきませんか? 行かない場合は理由を書いて下さい。」というような内容のものだったと思う。
 このアンケートを見て,私と私の友達二人はあることを思いついて小躍りして喜んだ。
それは,修学旅行には行かず,その積立金を元手に,我ら3人でどこか別のところを旅行しようという計画がもちあがったからである。
そもそも,修学旅行みたいな団体旅行はどうも楽しくない。気のあった仲間と,見たいところをゆっくりみられる旅の計画をたててでかけてみたいというウキウキした思いが高じたのだ。
私たちの,この「女子高生3人旅」の企画はおおいに弾み,放課後が待ちきれなかった。
しかも,この件については両親の反対もなく「気をつけて行ってこいよ」と気遣う言葉をもらっている。
あとはアンケートの「行きません」に丸印をし,理由のところに「友達と旅行をするから」と書いて提出するのみ。簡単なことだった。

◆修学旅行のアンケート

 だが,アンケートを出して間もなく,担任の教師から職員室に来るように言われる。なんだろうと思って行くと,なぜか先生はひどく怒っていた。私の書いたアンケート用紙を手にして
「これはどういう意味ですか?」と聞く。
「そこに書いたとおりなんですけど…」と事態が飲み込めない私。
「修学旅行に行かない,とはどういうことですか!」と,さらに質問される。
「あのう,友達と旅行を計画しているんで」と答えると,語気を荒げ「なんということですかっ。修学旅行はみんなで行くものなんです。みんなで行くから意義があるんです!」
「でも,だって,学校はアンケートをとってくださったじゃないですか。あのアンケートには<行かない>という選択肢も書いてあったと思うんですけど…。」
「そんなわがままなこと,許されることではありません。」
この後はどんな会話だったか覚えていない。今度は私のほうが怒ってしまったのだ。
あのアンケートはいったいなんのためにとったのだ?
べつにやましいことはない。修学旅行に行かないのがなぜいけない。
親もこのことを了承している。なのに,なぜ私が怒られなければならないというのだ?

最後に担任はこういった。
「とにかく,絶対に修学旅行には行ってもらいます。もし行かなければ退学という措置も考えますから。それから,あなたのお家の人にもお話をうかがわなくてはなりませんから,そのつもりでいてください。」

 事態は思ってもみない結果になった。暴力事件を起こしたわけでもないのにアンケートに答えただけなのに,退学ときた。アンケートといえば,その事柄を調査するためのものじゃないか。それに正直に答えた結果がそれかあ? 

だが,後日担任は家にやってきた。
私が学校にまだいる時間だったので,母が応対した。
そのときの様子は,母の話によればこうだ。
先生は「知子さんが修学旅行に行かないと言っていますが,ごぞんじですか?」というので,「はい,そのようですが」と言うと,「それについて,お母さんはどう思いますか?」っていうから,「知子がそうしたいというのだからそうさせてやりたいと思ってます」って言ったら,先生は何もいわず黙って帰って行ったという。
母は家に帰った私にそのときの様子を話てくれたのだが,先生が来たということで別に動揺しているふうでもなかった。「先生はどうしてそんなことで来たんだろう?」ととまどい,きょとんとしていた。

翌日学校に行った私は,また担任に呼ばれた。
昨日あなたの家に行ったが,親も親だ。だいたいあなたのお母さんはお茶もださなかったではないか。もう断じて修学旅行には行ってもらう。そういって譲らない。いやだというと,またあの「退学してもらう」をもちだしてくる。

 私たちは結局「女子高生3人旅」をあきらめた。友達二人は別のクラスだったが,それぞれなんだかんだと説得されたのだった。
私たちはその後,みんなと一緒に普通に修学旅行に行った。行き先は北海道。阿寒湖のまりもと網走刑務所の高い塀,アイヌのムックリの音,そんなことをなんとなく覚えている。気の抜けた旅だった。

◆傾向と対策

修学旅行もとっくに終わったある日の放課後。教室で,たまたま残っていた一人のクラスメートと話しているときに,ふと修学旅行の話になった。
そこで私は,あの思い返すのも苦々しい<怒りのアンケート事件>のいきさつを話した。話しだすと怒りはますます激しくなり,「だからさ,この話を新聞社とかに訴えて,記事にしてもらおうかとさえ思うよ!」と叫んでいた。
すると,そのクラスメートは,いつもの静かな口調で意外なことをいった。

「私も修学旅行に行きたくなかったの。だから,アンケートのとき,<行かない>に丸したんだよ。」という。
そういえばこの人は,修学旅行に行っていない。私は,自分のことで頭が一杯だったからか,そんなことも気がつかなかった。あらためてそのことに思い至った私は,
「えっ,じゃあ,なんて理由をかいたの?」と聞く。すると,
「船酔いするから,って書いたの」。
そうなのだ。北海道に行くには当時青函連絡船に乗って行かなければならない。船が激しく揺れるということはなかったが,確かに船には乗るのだった。

 そして,私はドキドキしながら,核心をたずねる。
「ねえ,ほんとに船酔いするの?」。彼女は,にやーっと笑った。修学旅行中は,家でのんびり遊んでいたという。
あ~あ,なんだ「その手」があったか。急に拍子抜けした。
なにも真っ向から立ち向かうだけが策ではないのだ。こうやって,穏やかに,角をたてず,それでいてしたたかに思いを成し遂げる方法も世の中にはあるのだと知った。彼女は大人だと思った。

「修学旅行」と聞くと,思い出してしまう苦い思い出である。 
(記:04.10.4)



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